力の感覚は、アテにならない

 

 技術のあるスポーツ選手の動作は、私たち素人と比べて、軽々としていて、力みがありませんね。

 素人の私たちが早く動こうとすると、つい身体に力が入ってしまうものです。
 ここ一番の時に固くなってしまったり、ケガをしてしまったり。

 なぜ、固くなってしまうのでしょうか?

 

■「折れない腕」の原理

 合気道の初心者が最初に習う技(?)に「折れない腕」というものがあります。

 初心者は腕を伸ばし、先輩が肘と手首を持ちます。先輩が肘を曲げようとするのに対し、初心者は抵抗するという練習です。
 最初は、どんなに力を入れても、簡単に曲げられてしまいます。

 次に、初心者は自分の腕をホースだとイメージします。そのホースの中を、勢い良く水が流れているとイメージすると、先輩が頑張ってもなかなか曲げられません。

 

 この技が成立するのは、腕を曲げる「屈筋」と、腕を伸ばす「伸筋」の感覚の違いにあります。

 実は、私たちが「力が入っている」と感じるのは、屈筋が働いている時。伸筋だけが働いている時には、力の実感がないのです。

 初心者が「力を入れよう」と頑張るほど、腕を曲げる屈筋が働いてしまいます。だから、簡単に曲げられてしまうのですね。

 そこで、イメージによって伸筋だけを働かせると、曲げられなくなるというのが、この技の原理。

 

■力ではなく、位置や加速度の感覚をアテにする

 「力を入れる」感覚は屈筋の状態を表しているだけ。伸筋の状態を教えてくれません。これは、他のスポーツでも同じです。

 素人が「早く動こう」と考えるときには、つい「強い力」を出そうとします。すると、屈筋の働きが強く出てバランスが崩れ、上手く動けなくなってしまうのです。これが、身体が固くなる理由。

 

 優秀な運動選手は、身体感覚が鋭いことが知られています。目を閉じていても自分の姿勢や手足の位置、状態を、正確に把握できるとのこと。

 その身体感覚を基準に「強い力」を出すのではなく「強い力を出せる動き」を出しているので、固くならずに高度なプレーができるのです。

 昔から「基本を繰り返して正しい形を作れ」と言われるのは、力を入れなくていい(実戦のように、急いで間に合わせなくていい)状態で、身体感覚を鍛える意味もあったのでしょう。