筋膜リリースといえば、普通は手技です。筋膜を伸ばしたり、剥がしたりして正常な運動性とバランスを回復するわけですが、時として、鍼で同様の効果が出る場合があります。
皮膚を動かして、動きの悪いところがあった場合、そこに浅く(切皮程度)の鍼を打つだけで、動きが改善するケースが多いのです。
深い筋膜では、動きの確認も、鍼で当てるのも難しくなりますが、うまく当てれば、やはり動きを回復させられます。
これは関節のリリースでも有効で、私も足関節などの強い関節の改善に多用しています。
●なぜ、効くのか?
なぜ、鍼を打つだけで筋膜や関節の動きが回復するのかについては、よくわかりません。
筋膜の構成を変えるほどの物理的な力を与えているわけではありませんし、鍼の小さな穴一つで、何かの成分が移動しているとも思えません。
可能性としては、筋膜の表面の神経に刺激が加わることで細胞膜のチャネルが開くとか、癒着の一部が動かされることで、はがれるきっかけができるのかもしれないとか、考えることはできます。
何にしても、まだ仮説も立てられない状態です。
●鍼治療の新しいアプローチになるか?
現代医学的な鍼は、これまでトリガーポイントアプローチを中心として発展してきました。これは過緊張によって変質し、痛みを出す筋肉(トリガーポイント)を鍼によって改善するものです。
今回の方法では、全体のバランスを崩している筋膜の緊張や、ズレを修正できる可能性があります。
トリガーポイントと合わせて使うことで、現代医学的な鍼治療の可能性をさらに広げることができるのではないでしょうか。
また、面白い発見があれば、お伝えしたいと思います。
膝が痛むとき、まず最初に疑うのは「変形性膝関節症」。膝関節の軟骨がすり減って炎症を起こし、腫れて痛む症状です。
ところが、軟骨に損傷がなく、腫れも無いのに痛みがある場合もあります。
こうした場合、軟骨ではなく、靭帯が原因になっている可能性があります。
演奏家さんの手を治療した時のことです。
手根骨(手首のあたりの、こまかい骨の集まり)のいくつかが動きにくくなっていたのでそれをほぐし、親指の付け根のねじれを治すと、ぎこちなかった指が楽に動くようになりました。
治療後、動きやすくなったのを確認しながら、こうおっしゃいました。
「ここで治療を受けるまで、指が動かないのは、自分の練習が足りないからだと思ってたんですよ」
つまり、悪い癖がついているから動かせないのではないか、と思っていたそうです。
実際には、「正しい動きをしていない」ではなく、「正しい動きができない状態だった」わけですが。
■正しく動くには、動ける骨格・関節が必要
膝などの痛みでいらした方から、
「歩き方が悪いから、足が痛くなるの?」
と、尋ねられることがあります。
もちろん、そういうケースも無いわけではありません。
しかし実際には「足の歪みで、正しく歩きたくても歩けない」ことの方が、ずっと多いのです。
足底が傾いていれば、まっすぐ歩いていても体重が外側にかかってしまったりしますし、足首が固いだけで体重移動がまっすぐいかなかったりします。
そうした方が、関節や筋肉の状態を整えるだけで、歩き方が変わることは多いのです。
努力よりも、努力が生かせる環境を作るのが大事。
ほかのことでも言えることかもしれませんが。
八起堂治療院は、ねんざ後遺症の治療を得意としていますので、捻挫についての問い合わせをたびたび頂きます。
その中でも多いのが、
「ねんざのあと、何ヶ月たっても腫れが引かなくて、気がついたら関節の動きが悪くなっていたんです…」
という、長引いたねんざの後遺症です。
膝が痛むという方は、少なくありません。
こんなとき、病院ではまず、膝軟骨の状態を見ます。軟骨がすり減っていれば、変形性膝関節症という診断がつきます。
ところが、軟骨に変形がないのに痛みが出ることもあり、原因がわからないこともあります。そんなときは、膝や足の歪みが原因かもしれません。
先日、TAM手技療法の受講者の方から、質問がありました。
脊柱菅狭窄症で手術を受けた方、とくに脊椎固定のプレートが入っている方の、痛みやしびれは、どのように治療するか、とのことでした。
■脊柱管狭窄症 手術後も痛むのはなぜ?
脊椎管狭窄症とは、文字通り、神経が通っている脊柱の管が狭くなる症状です。神経が圧迫されて、痛みやしびれなどが生じます。
手術は、脊椎の骨を切って管を拡げたり、プレートと言われる金属を入れて、脊椎の並びを整えたりするのが主流。それによって神経の圧迫をとるのですが、手術後も痛みが残ってしまう方が少なくないのです。
手術で神経の圧迫は取れているのに、どうして痛みが出るのでしょうか。
■筋肉から出てくる痛み
実は、身体の痛みには、筋肉が大きく関わっています。
筋肉は、緊張が長く続くと疲労し、血行不良を起こして痛みはじめます。緊張の原因は、身体の歪みや炎症、一つの姿勢で長くいることなど様々。
中でも代表的なのが、関節や皮膚などの動きが悪い場合です。筋肉は、動かない部分を動かそうと、無理な緊張をして、痛むようになってしまうのです。
脊柱菅狭窄症の手術後、とくにプレートが入っている場合には、腰椎の一部が動かなくなっているため、筋肉は無理な緊張を強いられます。
少なくとも痛みの何割かは、こうして緊張し固くなった筋肉によるものだと考えられます。
■痛みを減らすには?
この場合、プレートを取ることはできませんので、脊椎の固定にアプローチすることはできません。しかし、筋肉および皮膚・皮下組織の癒着をとり、可動域を回復することはできます。
重なっている筋肉層、皮下組織を動かして癒着をとり、動きを回復することで、痛みの減少が期待できます。とくに手術のあとなら傷跡の癒着、短縮があるので、その部分の施術は有効でしょう。
一見、原因不明の痛みでも、対策のある場合は多いもの。お気軽にご相談くだされば、幸いです。
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